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  • 執筆者の写真脇坂英弥

意外なところに営巣するケリ

 ケリは田んぼ、もしくは畑地に営巣します。しかし意外なところに営巣するケリが観察されたようです。連盟京都からの報告です。

写真1. ケリ親子

●田んぼや畑地に営巣するケリ

 毎年、京都府南部のフィールドを中心に、ケリを捕獲して足環をつけて放鳥する標識調査をおこなうことが私のライフワークです。調査では、繁殖しているケリを探すところから始め、巣の位置、環境、ふ化の成否などの記録に努めています(写真1)。多くのケリが田んぼ、もしくは畑地に巣をかまえており(写真2、3)、それ以外の環境で見つかることはごくわずかです。

 ところが、今年は意外なところに営巣するケリが観察されました。新たな環境で繁殖を試みるケリ。彼らに出会えたことは、ケリを研究する者として貴重な経験ができたわけですが、一方で大きな課題にも直面しました。以下にご紹介しましょう。


写真2. 多くのケリが営巣する田んぼ
写真3. 田んぼで営巣するケリ

●その1  駐車場で営巣

 5月中旬に発見されたのは、京都府城陽市の月極駐車場の砂利の上に営巣したケリです(写真4、5)。抱卵の様子を継続的に観察された城陽環境パートナーシップ会議のメンバーの報告により、ここで4羽のヒナが無事にふ化したことが判明しました。約1か月の抱卵中に、よくぞ車や人に踏みつけられずに済んだことだとホッとしたものの、新たな課題に気づきました。

「駐車場はブロックとフェンスで囲まれているし、車の出入りも多い。しかも餌も水もほとんどない乾燥した場所。ここでヒナが飛べるようになるまで成長するのは難しいのではないか…」そう考えたメンバーは、標識調査員の協力のもと、親子を隣接する田んぼへ移動させることにしました。6月24日には、親鳥とヒナが駐車場から南へ広がる田んぼへ移動していることが確認され、そのうちのヒナ1羽に環境省リング(8A-36148)を装着することができました。

 その後も観察は続けられ、嬉しいことに親子の無事が確認されました。7月20日には大きくなったヒナ3羽が翼をばたつかせ、その2日後にはすっかり飛べるようになったとの報告をいただきました。駐車場で命を宿したヒナたち。彼らの今後の成長が気になるところです。足環のついたヒナがどこかで発見されれば、そんな期待も高まります。

写真4. ケリの巣が発見された駐車場
写真5. 駐車場で営巣するケリ

●その2  校庭で営巣

 5月30日、奈良市の私立学校の先生から「校庭にケリが営巣している」との連絡をいただき、すぐに現地へうかがいました。ケリの巣はサッカーコートのほぼ中央にあり(写真6)、踏みつぶされないようにと、5本のカラーコーンが目印として立てられていました(写真7)。巣はシバの茎を集めただけの簡素なもので、親鳥は人目を気にするそぶりもなく抱卵を続けていました。

その後、生徒と先生が定点カメラを設置して継続観察を行なったところ、6月13日の夕方から14日早朝にかけて2羽のヒナがふ化に成功したことが分かり、関係者は大いに喜んだものでした。しなしながら、自然はときに野生動物に厳しいものです。7月5日にいただいた連絡によれば、2羽のヒナは激しい雷雨に見舞われたために衰弱し、冷たくなって死亡していたとのことでした。

 先に紹介した駐車場で営巣したケリの場合、幸いにも周囲が田んぼであったことから、本来の生息環境へ速やかに移動させることができました。一方、当学校の場合、周囲は住宅や商業施設などが立ち並ぶ市街地が広がっています。ケリ親子を校庭から移動させることは現実的ではなく、ここでヒナを育てさせる選択しかできませんでした。とは言え、校庭の中だけでヒナが成長するのに充分な餌と水を得ることは難しく、残念な結果に終わったことは仕方のないことだと考えています。

 後日に先生からうかがった話では、ケリは昨年も同じ場所に産卵していた可能性がある、とのことでした。もしかしたら、まだ繁殖経験の浅い若いペアなのかもしれません。

 「来年こそは、ふ化したヒナがのびのびと成長できる場所に巣をかまえてほしい」。抱卵中のケリを見守ってきた関係者みんなの願いです。

写真6. ケリの巣が発見された校庭
写真7. 校庭で営巣するケリ

プロフィール

脇坂英弥(わきさか・ひでや)

 先日、地元の新聞社の取材に協力したときのこと。記者の方から「ケリの魅力を教えてください」という質問を急にぶつけられ、不覚にも絶句してしまった。しどろもどろになりながら必死に話したものの、どうもピンとこない。結局「なんか好きなんですよね」と記事になり得ないコメントで逃げ切ったのであるが。また、ある連載記事に「ケリは不細工だ」と書いたら、「あんなきれいな鳥を不細工だなんでひどい」と読者の方に怒られたことも。ケリの魅力は何なのか。それを知るために今日もケリを追いかけているのかもしれない。

兵庫県立人と自然の博物館 地域研究員、博士(兵庫県立大学 環境人間学)




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