top of page
  • 執筆者の写真早川雅晴

海岸で鳥を見ながらウニの進化について考える

●(正形類の)ウニの殻


 海で鳥をよく観察するために、適したポイントへ移動することがあると思います。海岸線に沿って岩場を移動する時には、怪我をしないように注意深く足元をよく見ることになりますので、落ちているものも目に入ります。意識さえすれば、必然的にビーチコーミング※をしていることになります。落ちている物の中に、写真①のような扁平なボール状のものもあります。これはウニの殻です。ウニというとトゲトゲのイメージ(写真②)だと思いますが、写真①は死んで棘が外れた状態のものです。表面をよく見てみると、イボ状の突起(棘イボ)がたくさんついています。このイボの上には棘がついていました。大きなイボには大きな棘が、小さなイボには小さな棘がついています。ですから殻の表面のイボの大きさと数から、生きていたときの棘のついたウニのイメージをある程度想像することができます(写真③④⑤⑥)。


※海岸などに打ち上げられた漂着物を収集の対象にしたり観察したりする行為。


写真1.ムラサキウニの殻


写真2.ムラサキウニ


写真3.バフンウニ


写真4.バフンウニの殻


写真5.ノコギリウニ


写真6.ノコギリウニの殻


 このウニの殻には、大きな穴が1つ空いています。これはウニの口です(写真⑦)。人の口のように開閉することはできませんが、口の中には顎にあたる「アリストテレスの提燈(写真⑧、⑨)」があります。このアリストテレスの提燈には歯が5枚あり、出し入れすることで海藻をちぎって食べています。ウニは動物ですので食べたら糞もします。糞を出す肛門が口の反対側(上側)にある小さな穴です。生きている時には穴は開いていませんが、とても薄いために多くの場合、死んで棘がとれる際に肛門も壊れて穴が開いてしまいます(写真⑩)。肛門の周囲は多孔板(後述の「管足」を動かすための水を出入りさせるための小さな穴の開いた板)と生殖板(卵や精子を放出するための生殖孔という穴があいた板)で囲まれています(写真⑪)。この部分も壊れやすく、肛門と共に壊れている場合が多いです。生殖孔は全部で5つあります。アリストテレスの提燈の歯の数も5枚でした。殻をよく見ると全体にスジ状に小さな穴(管足孔)が空いていますが(写真⑫)、このスジのまとまりも5組(10列)あります。管足孔は管足が身体の内部から出る穴です。管足は多孔板から出し入れされる水の水圧によって調整され伸び縮みします(図①)。先端は吸盤になっていて、周囲の岩などにつきながら移動します。ウニは棘を使って移動していると思っている方が多いのですが、基本的に管足で移動します。管足の働きとしては移動の他に呼吸(ガス交換)の働きをすることも知られています。管足孔の並び方はウニの種類によって異なります(写真⑬、⑭)。近年、ウニの殻をランプシェードとして(マニアのための?)インテリアを見かけることがありますが、穴から漏れるランプの光は、ウニの種類によって違うのでしょうか?

 以上のように、ウニの身体は5という数字が基本になって構成され、肛門を中心に放射状に管足孔や生殖孔が配置されているので5放射相称といい、人を含めたほとんどの動物が左右対称であるのとは異なります(5放射相称も左右対称の1つの形であるという見方もできますが)。5放射相称はヒトデやナマコなどの棘皮動物に共通の特徴です。


写真7.ノコギリウニの口の部分


写真8、9.ガンガゼモドキの「アリストテレスの提燈」


写真10.ムラサキウニの壊れて空いてしまった肛門





多孔板




肛門



生殖板





写真11.トックリガンガゼモドキの肛門付近



写真12.トックリガンガゼモドキの管足孔(色の茶色に見える部分)


図1.正形類のウニの基本構造


写真13、14.ムラサキウニ(左)とラッパウニ(右)の管足孔を内部から見たところ


●カシパンウニ類

 

 トゲトゲで球形(正形類)のウニは海の中でも岩に多い場所に主に生息しています。球状の形は岩の隙間に入って身を隠すのに適していますが、底質が砂や泥質の環境では目立ってしまい、動きの遅いウニは魚などの捕食者から逃げる術がありません。そこで砂泥質の環境でも適応して生息できるように、正形類のウニは棘が短くなり、体は扁平になっていったと考えられます。それが不正形類のカシパンウニ類の仲間等です(図⑮)。カシパンウニ類はカレイやヒラメのように砂に浅く潜り、海底の有機物(デトリタス)を食べています。体が扁平であるため砂地で捕食者に見つかりにくくはなりますが、口と肛門が隣り合わせに位置してしまうことになり、そのままでは消化管が短すぎて食べたものを消化できなくなってしまいます。そこで、肛門の位置を中心部から周辺部へ移動させることで(図⑯)、消化管の長さを確保したと考えられます。肛門の位置が移動することで、ウニに前後軸ができ、完全な5放射相称とは言い難くなります(図⑰)。また、中心部にある口から周辺部近くに存在する肛門までの位置は消化管が通るため、本来そこにあった生殖孔は用をなさなくなります。その結果、5つあった生殖孔のうちの1つが消失し、4つに変化している種がほとんどです(図⑮)。カシパンウニは砂の中に生息するため、酸素不足に陥る危険があります。そこで、ガス交換のため管足だけ砂の上に出します。このため、5組の管足孔は上面だけに位置するようになり、花びらのような形になっています(図⑱)。


写真15.ハスノハカシパンウニ


写真16.California Sand Dollar(サンドダラーはカシパンウニのこと)の口と肛門


写真17.前後軸が明確なハグルマカシパンウニの仲間 Fossil Sand Dollar(化石種)


写真18.ハスノハカシパンウニを内側から見たところ



●ブンブク類


 砂泥地では有機物は表面だけでなく、少し深いところにも存在します。そこのデトリタスを利用してエネルギーを得ているのがブンブクの仲間です(図⑲)。ブンブク類は数10㎝の深さの泥の中を移動しながらデトリタスを食べるため、体は扁平である必要がなくなり膨らみます。また、上から見た時に円形ではなく楕円形になります。口の位置は中心から前方に移動します。移動する方向が決まってくることで前後軸の明確な形になっています。泥の中は表面よりも有機物が少ないことから、身体の維持成長に必要なエネルギーを得るため、多くの砂泥をたべる必要があります。そこで、口は大きく砂泥を取り込みやすい形に変わっています(図⑳)。また、肛門も大きくなっています(図㉑)。身体の形状が扁平でないのにも関わらず生殖孔が4つしかないことから(図㉒)、ブンブク類はカシパンウニ類から進化したと考えられます。



写真19.オオブンブク


写真20.オオブンブクの口


写真21.オオブンブクの肛門


写真22.オオブンブクの生殖孔



●レッツ・ビーチコーミング!?


 海岸が岩場か砂浜かによって拾える可能性のあるウニの種類は異なりますが、それぞれ特徴的な魅力ある形をしています。海岸で様々な海鳥を見ることは楽しいのですが、観察ポイントまでの移動の時や、海鳥が思うように見えないとき、足元のビーチコーミングも楽しんでみては如何でしょうか。





プロフィール:


早川雅晴(はやかわ・まさはる)


植草学園大学発達教育学部 教授。公益財団法人 日本鳥類保護連盟 評議員。大学では理科教育を行っています。鳥類については、体力の衰えに抗いながら、主にコアジサシの保全生態学的研究を30年以上行なっています。海での調査は鳥以外の楽しみもあり魅力的です。

















 




bottom of page