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  • 執筆者の写真松永聡美

冬の厳しい季節、鳥たちは何を食べてるの?

 冬の寒い時期は、春や夏に活発に動いていた虫や、秋になっていた実が少なくなり、鳥たちにとっては厳しい季節となります。そんな中、鳥たちはどんな物を食べて冬を乗り越えているのでしょうか。今回は植物に注目していくつかご紹介します。

写真1. ピラカンサを食べるツグミ
●ウルシ科の実

 冬になる実の中ではウルシ科の実は鳥たちにとても人気が高く、ハゼノキ、ウルシ、ヌルデなどの種類があります。実にはロウの成分が含まれており、ハゼノキやウルシの実は和ロウソクの原料としても使われています。ロウの成分は主に脂質なので、高カロリーな実は鳥たちにとってはご馳走なのです。ヌルデは実の表面に白い粉が付着していることがありますが、これはリンゴ酸カルシウムという成分で舐めると塩味がします。これは鳥たちにとっては貴重なミネラルとなるため、やはり大変人気があります。実がなるとカラス、ヒヨドリ、ムクドリといった大きな種類からコゲラ、メジロ、エナガといった小さな種類まで様々な野鳥たちが入れ替わり立ち替わり訪れます(写真2)。冬のバードウォッチングはウルシ科の実のなっているところを探してみるとたくさんの鳥たちと出会うことができるかもしれません。ちなみに種子は鳥に食べられることで遠くに運ばれ、さらに鳥の体内を通過することで発芽率が上がるという報告もあるので、エネルギーを費やしてでも鳥たちに好まれる果実を作りたいようです。

写真2. ハゼの実を食べるムクドリとヒヨドリ
●ツバキの花蜜

 春に咲く花が多い中でツバキは冬に花を咲かせます。こうすることで花蜜が好きな鳥たちを独り占めにすることができるので受粉の成功率が上がると言われています。花びらも鳥に気づかれやすいように赤く大きな形をしており、蜜も鳥たちが来てくれるようにたくさん用意しています。主にメジロとヒヨドリがよく訪れますが、メジロとヒヨドリでは少しだけ食べ方に違いがあります。メジロは花びらにしがみつきながら蜜を舐めますが(写真3)、ヒヨドリは体が大きいので花びらにはとまらず、枝にとまりながら蜜を舐めます。花びらの下の方に傷があれば、それはメジロが訪れているサインかもしれません。またメジロやヒヨドリの舌の先は筆状の形をしており、蜜を舐めるのにとても便利な構造です。

写真3. ツバキの花びらにしがみつくメジロ
●冬芽

 冬芽は一見あまり美味しそうには見えませんが、実は栄養価が高く貴重な冬の餌資源です。しかし硬いうろこのようなもの(芽鱗)に包まれていることが多く、冬芽を食べることができる鳥の種類はある程度限定されます。その中でも最もよく知られているのがウソという鳥で、冬になると高山から低地に降りてきて、冬芽の中でもサクラやウメの花芽を好んで食べます(写真4)。そのため年によってはサクラの名所や梅園に深刻な被害をもたらし、駆除されてしまうこともあるそうです。冬芽は丸のみにするのではなく、もぎ取ったあとにクチバシで芽の芯の部分だけをより分けて食べるので、採餌中はクチバシに剥いた芽鱗がくっ付いていることがよくあり、なんとも愛らしいです。

 シメ、イカル、ベニマシコ(写真5)、スズメといった、クチバシに厚みがある種類であれば冬芽を食べることができるようです。

写真4. 花芽を食べるウソ
写真5. 冬芽を食べるベニマシコ

 ワカケホンセイインコも鋭いクチバシも持っているので冬芽を食べることができます(写真6)。どんな鳥が冬芽を食べに来るか、その鳥はどんなクチバシをしているのか観察してみると面白いかもしれません。

写真6. 冬芽を食べるワカケホンセイインコ
●冬の終盤は赤い実に注目!

 冬は公園などでも赤い実を目にすることがよくあるのではないでしょうか。真っ赤に実っている実はいかにも美味しそうですが、意外にも冬の終わり頃まで残っていることが多くあります。熟す時期が遅かったり、周りにもっと栄養価の高い餌があったり、地面の近くに実っている種類はそもそも鳥にとって食べづらかったりと理由は種類や周辺環境により様々なようですが、毒素をもっている場合があるということも理由の一つとしてあげられるようです。ハナミズキなど毒を持っている果実でも、赤く実っていることで鳥たちには魅力的に見えるのか、厳冬期になると採餌しにくる光景を見かけます。しかしあまり多くは食べられないのか、長居はしないように感じます。長い時間同じ木で採餌することで、その場所で鳥は糞をします。そうすると植物にとっては種子を遠くに運んでもらえないことになるので、あえてたくさん食べられないようにするのは植物の戦略だと言われています。

 ピラカンサやナナカマドは熟すにつれて毒素が薄まるそうなので、ある時期に一斉に鳥たちが食べにくることがあります。これはもしかすると鳥の渡りの時期に合わせているのかもしれません。

 またクロガネモチ(写真7)は毒素が無いのですが、なぜか人気がなく冬の終わり頃まで残っていることが多いです。クロガネモチの果実は人間が食べてもあまり美味しくないのですが、鳥にとっても美味しくないのでしょうか。鳥は果実を丸飲みにするので味覚を感じないように思うのですがとても不思議ですね。

 赤い実がなる種類では他にもモチノキ、イイギリ、センリョウ、マンリョウなどがよく見られます。お庭に植えた覚えのない赤い実のなる木が生えてきたらそれは鳥たちが運んできたものかもしれません。冬の終盤にはこうした赤い実のなる木に注目して鳥を探してみてはいかがでしょうか。

写真7. クロガネモチを食べるヒヨドリ


プロフィール

松永聡美(まつなが・さとみ)

公益財団法人日本鳥類保護連盟調査研究室主任研究員。小さい頃に自宅でセキセイインコを飼っていたことがきっかけで庭に来る野鳥にも興味が湧き野鳥好きに。連盟ではワカケホンセイインコの調査を担当。外来鳥類と人とが共存できるように調査を行っている。



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