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  • 執筆者の写真藤井 幹

鳥の飛翔~生活スタイルとの関係~

 鳥の最大の特徴の一つが飛翔。今回はその飛翔について詳しく紹介しています。

写真1. オオタカの飛翔

 鳥の最大の特徴の一つが飛翔することであり、皆さんが鳥の特徴として真っ先に思い浮かべるのも飛翔することではないでしょうか(写真1)。飛べない鳥もいますが、やはり飛翔は鳥を語る際には欠かせない特徴です。今回はその飛翔についてもう少し詳しく見てみましょう。


●風切羽の役割

 鳥には翼があり、翼には飛翔に必要な風切羽が付いています。風切羽には初列風切と次列風切があり、飛行機に例えると初列風切がプロペラの役割、次列風切が翼の役割をしています(図1)。初列風切が推進力を、次列風切が浮力を得る役割をするわけですが、その初列風切を図​2のように比較してみました。初列風切を横から見た図で、湾曲の度合いが異なることが分かるかと思います。これは飛翔のスピードに関係しています。湾曲が少ない初列風切を持つ鳥は翼も水平に近く、空気抵抗が少ないので風に乗って速く飛ぶことができます。風に乗ってしまえば羽ばたきをあまりしなくてもスピードを出すことができます。これに対して湾曲の度合いが大きいキジやカイツブリのような初列風切を持つ鳥は上空で風に乗って飛翔することには向いていません。翼自体が湾曲することになるので、空気抵抗の面から考えても風に乗って高速で飛翔するのには不向きと考えられます。飛翔を維持するために羽ばたき回数も多くなります。これだけ聞くと初列風切は湾曲していない方がいいのではないかと思うかもしれませんが、湾曲度合いが少ない初列風切を持つ鳥の多くは飛び立ちが苦手という共通点があります。地面から飛び立つとき、湾曲の少ない初列風切は空気を掴むのを得意としないため、どうしても勢いよく飛びあがれないのです。上空に上がって風に乗れば速いのですが、そこまでに時間がかかります。極端な例では図2の下にあるハリオアマツバメ(アマツバメの仲間)は、翼自体も長いので地面から飛び立つことができません。必ず崖などの高い所に止まり、そこから飛び降りることで飛翔できるのです。高速で飛翔する能力を身に着けた代償は大きいようにも思いますが、それでも速く飛ぶことに特化して進化してきたわけですから、メリットの方が大きいのでしょう。


図1. 鳥の部位の名称
図2. 初列風切の湾曲の度合い

●湾曲した風切羽を持つ鳥

 では湾曲した初列風切を持つ鳥についても見てみましょう。代表的なのはキジの仲間です(写真2)。キジは地面で過ごす時間が長く、逃げるとき以外はあまり積極的に飛翔することはないように思います。しかし、いざ飛び立つとその初速はとても速く、もし捕食者であるタカ類が同時に地面から飛び立ったらあっという間に逃げられてしまいます。キジの仲間の初列風切は湾曲度合いが大きく、そして羽軸も太く硬くて丈夫なので、空気を掴み、キジの重い体を一気に持ち上げることができるのです。では同じく湾曲の度合いが大きいカイツブリはどうでしょうか。カイツブリはお世辞にも飛び立ちが得意とは言えません。水面から飛び立つときは水面を走るようにしながら少しずつ浮上していきます(写真3)。キジと違って飛び上がるための筋力に欠けているのかと思います。ではなぜ湾曲しているのか。それは水中に潜るために進化したと言えます。カイツブリは潜水が得意な鳥です。潜ることに特化するために、体を球形に近づけて重心を体の中心に近づけ、スムースに回転しながら水面から水中へ潜ることを可能にしたのです。そのため、初列風切は体の体形に沿って湾曲し​、水中に潜る際の妨げにならないように進化したものと考えられます。


写真2. ホロ打ちするキジ
写真3. 水面を走りながら飛び立つカイツブリ

●両方の利点を併せ持つ鳥

 またこれらの鳥とは別に、飛び上がりの初速も速く、風に乗って速く飛ぶことができる鳥もいます。それはハトの仲間です。初列風切の湾曲の度合いは小さいのですが、鳩胸と言われるほど分厚い胸筋で力強い羽ばたきを可能にし、湾曲度合いが小さい初列風切でも素早い飛び立ちを可能にしています(写真4)。以前奄美大島で、林道沿いでイチゴ類の実を食べていたズアカアオバト(写真5)が車に驚いて飛び立ち、車を先導するように飛びましたが、スピードは一気にトップスピードになり、40km/hを超えていました。力強い羽ばたきとスピードには驚かされました。このほかスズメ目など中間型のタイプも両方の利点を併せ持つと言えるかもしれません。


写真4. 飛び立つキジバト
写真5. 飛翔するアオバト

●浮力を得る次列風切

 それでは次に飛行機に例えると翼の役割をしている次列風切についても見てみましょう。初列風切は多くの鳥が9枚か10枚ですが、次列風切は鳥のグループによって数は異なります。数が多い鳥は翼が長いということになり、初列風切の長さに対して次列風切が極端に短い鳥は翼が細いことを意味します。この2つの組み合わせで翼の形状が決まります。細く長い翼は、グライダーのように風に乗ることが得意と言えるでしょう。海上で波からの風を受け、グライダーのように飛翔するアホウドリやミズナギドリの仲間は長い翼を持つことで風を上手く利用しているわけです(写真6)。スズメでは次列風切は6枚ですが、アホウドリでは次列風切は34枚もあります。また、アマツバメの仲間は次列風切を極端に短くすることで細長い翼を形成しています(写真7)

写真6. 海上を飛翔するオオミズナギドリ
写真7. 飛翔するアマツバメ

●猛禽類の翼の形

 次列風切の長さ、数の組み合わせは多様で、それぞれに理由があります。全てを説明することはできませんが、翼の形と生活スタイルの違いについて猛禽類を例にとって比較してみましょう。猛禽類の中でもタカ目タカ科の翼の形状は色々で、開けた環境で狩りをするチュウヒやイヌワシ(写真8)は比較的細長い翼を、森林性で林内移動が多いクマタカは次列風切が長く、幅広の翼をしています(写真9)。開けた空間で狩りをするにはイヌワシのような翼が、林内を飛翔するにはクマタカのような翼が適しているようです。同じ猛禽類でハヤブサ目ハヤブサ科のハヤブサは、次列風切が短く、細長い翼をしています。これは上空で風に乗った速い飛翔を可能にしており、そのスピードを生かして狩りをするわけです。

写真8. イヌワシの飛翔
写真9. クマタカの飛翔

●海を渡るヤマシギ

 もう一つ例を挙げてみましょう。シギ・チドリの仲間にヤマシギという鳥がいます。シギ・チドリの仲間は全般的に次列風切が短く翼が細長で飛翔を得意としています。そして多くが渡り鳥で、長距離を飛翔します。ヤマシギも同様に次列風切は初列風切と比べて短めで、飛翔はとても得意です(写真10)。そのヤマシギの近似種でアマミヤマシギという鳥がいます。アマミヤマシギは世界でも奄美大島から徳之島にかけてのみで繁殖する鳥で、ほとんどのアマミヤマシギは大きな移動をしません。森林性でヤマシギと比べると次列風切も長い幅広の翼をしています(写真11)。ディスプレイで上空を飛び回りますが、風を利用した長距離の飛翔は得意ではなさそうです。そのため、長距離を移動するヤマシギとは対照的に、アマミヤマシギの翼は林内での生活に適した形に進化したのだと考えられます。しかし、そのアマミヤマシギが繁殖期以外の時期、沖縄島北部のやんばるにも生息していることが確認されており、沖縄県の天然記念物にも指定されています。そのアマミヤマシギがどこから来るのかがこれまで解明できない謎となっていました。繁殖期にはやんばるで観察されないのだから海を渡って来ているはずですが、あの幅広の翼と飛翔能力で海を渡れるのか?というのが謎を深めていました。

 その長年解き明かすことができなかった謎が、今年(令和5年)2月に私たちの調査で解明されたのです。NPO法人奄美野鳥の会と共同で行ってきた調査で、沖縄島のアマミヤマシギ3羽にGPSタグを装着し、その内の1羽が奄美大島に渡ったことが確認されたのです。長距離を渡らないことを選択して進化してきたはずのアマミヤマシギが、そのスペックで海を渡る。なぜ?何のために?まだ謎は残されていますが、生活スタイルに合わせた翼の形状の進化という理屈に関係なく、彼らを突き動かす何かがあるのだと考えると、想像も膨らみ妄想が止まりません。


写真10. ヤマシギの翼
写真11. アマミヤマシギの翼

プロフィール

藤井 幹(ふじい・たかし)公益財団法人日本鳥類保護連盟調査研究室長。学生時代から羽根に魅せられ、羽根から種を識別することをテーマに羽根収集に明け暮れる。著書に『野鳥観察を楽しむフィールドワーク』(誠文堂新光社)『羽根識別マニュアル』(文一総合出版)、『世界の美しき鳥の羽根 鳥たちが成し遂げて来た進化が見える』(誠文堂新光社)、『動物遺物学の世界にようこそ!~獣毛・羽根・鳥骨編~』(里の生き物研究会)、野鳥が集まる庭をつくろう-お家でバードウオッチング-(誠文堂新光社)など




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