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  • 執筆者の写真野口好博

カメラを通して自然を見る~写真撮影のメリットとマナー~

 近年、益々、解像力が増し便利になってきたカメラを使用した個体識別と、野鳥撮影時のマナーについて、写真家の野口好博さんが紹介します。


●写真で個体識別

 私は野鳥が好きで、長年色々な野鳥を撮影してきました。その中でも特に猛禽が好きでよくクマタカの撮影にも出かけます。出現した個体をカメラで撮影することで個体識別を正確にすることができるので、双眼鏡や望遠鏡で覗いているだけよりも有益な情報を得ることができます。

事前に撮影した画像を拡大し、特徴となる尾羽や風切羽(左右)の欠損や傷の有無を確認しておけば、調べたい個体の画像の同じ個所を調べることで、同一個体かどうかを見分けることもできるのです。(羽が生え変わったりしない限り有効)

 この冬、埼玉県で越冬したケアシノスリが数週間姿を消し、再度現れた3月にはかなり羽根が傷んでいて、地元のカメラマンには、別個体が現れたという人や同一個体かどうか悩んでいるという方がいました。

 そこで私は、新たに出現した個体(3月末に撮影)と過去の画像(1月に撮影済み)を比較し羽根の欠損や傷の状態を調べ、過去と同じ個所に切れ込み傷が残っていることで、同一個体であるということを確認しました。



 このように撮影した画像による確認で、個体識別が可能であることが多く、野鳥撮影は記録としても大いに活用できます。


●写真撮影のマナー

 最近、私が感じた野鳥撮影の動向について書いてみたいと思います。

 近年、鳥を撮影している現場に行くと、野鳥写真を趣味として楽しむ高齢者層と若い女性層が増えてきているように感じます(そういう私も高齢者ではありますが)。

 またカメラメーカーも、一般の家族写真や記念写真を撮るユーザーより、増加しつつあり、そしてより高機能でかつ高価な機材を求める傾向がある野鳥カメラマンへの要望を満たすべく、新製品を世に送り出す傾向が強くなっている気がします。

 しかし、野鳥カメラマン人口が増える一方でそれに伴い、撮影フィールドでは思いもよらないトラブルが発生しているのも見逃せない兆候であります。

 特に人気の高い鳥や珍鳥が出現した時には、野鳥カメラマンが大挙して押し寄せることにより、次のようなトラブルが発生しています。

●主なトラブル

【野鳥への影響】

・オオタカやサンコウチョウ等の巣への近づきすぎや大声での談笑が、鳥へのストレスとなり、営巣の放棄につながった

・渡りの鳥の休息を阻害して、しっかりとした休息や餌も取れないうちに渡去せざるを得なかった 等々

 主な原因;野鳥に対する知識不足、撮影者のエゴ

【通行人や生活者への影響】

・道路の真ん中に三脚を立てることにより、歩行者や車の通行の邪魔となり、クレームが発生した

・農耕従事者の作業を阻害したり、また入り込んではいけない農耕地や私有地への侵入が起こった

・社寺林で営巣したアオバズクやレンジャクにカメラマンが押し寄せたことで、参拝客へ迷惑が掛かり、やむなく枝を払ったり、木を切られてしまった

・カメラマンが乗ってきた車の路上駐車により、付近で交通障害が起こった 等々

 主な原因;周りへの配慮不足、遵法精神不足

 こういうトラブルが原因でパトカーが出動したり、挙句の果てにはカメラマンへの立ち退き指示等が起こったという話もたびたび、耳にします。さて、このような事態が発生しないよう一部の公園やフィールドでは、次のような対策を取り、未然に起こりうるトラブルを防いでいる事例もあり、ある程度効果が上がっているようにも思えます。


●取られている対策

【営巣期、一定の期間、ロープなどで立ち入りを禁止する】

 営巣地などで、繁殖期にロープで近寄れないよう当該場所に囲いをし、場合によっては、警備員を配置して徹底を行なっています(オオタカやフクロウの営巣地のある公園や神社)。


 カメラマン対策として営巣時期には営巣木の周りをロープで囲い、最低限の生活区域を立ち入り禁止とし、毎年、巣立ちまで成功させています。


【通路の確保と場合によっては三脚の使用禁止】

 通行に邪魔にならないようカメラマンに看板等で注意を喚起したり、近年特に多くなってきたのが、三脚を立てることを禁止して、公園内での歩行者とのトラブルを防止しています(都市公園、保全施設・緑地)。


【有志(多くの場合、地元の野鳥愛好家)によるカメラマンの行動監視と指導の徹底】

 撮影の仕方(特に撮影場所や移動時の三脚の持ち方等)や車の置き場所等を指導することにより、歩行者、周辺の生活者や作業従事者のクレームとならないよう注意を促しています。

 100人近いカメラマンが整然と並び、通行人や車に迷惑をかけないようなマナーを守っています。また写真には写っていませんが右端に、コミミズクが畑との移動をしやすいよう数十mの撮影禁止区間を設けて、スペースを開けています。

​ これらの対策は、市町村や公園管理団体との連携で実現したものや、また、そこまではいかなくても地元で鳥を愛する人たちの惜しみない時間と労力をかけた取り組みによるものによるものです。

  年々増加する野鳥カメラマン、またスマホ、SNS等の普及による鳥情報の伝達の早さと広がりにより、今後、これまで以上に沢山のカメラマンが、特定の場所に集まってくることは避けられず、何らかの規制を設けることは、やむを得ないことだと思います。

また規制する側が良かれと思って注意したにも関わらず、逆切れされたり、周りへの配慮のなさで自分だけの主張を繰り返すカメラマンがいたりということで、なかなか一筋縄では行かないという現実もあり、規制だけではなく「啓蒙活動」も同時に必要かと思います。

  集まってきた皆さんが、野鳥への影響を一番に考えた上で、自分本位な行動を慎み、マナーを守ることで、これからも皆が野鳥撮影や観察を「楽しむ」ということができればと思っています。

 そのためには、こういう事例を広げ、野鳥と共存するという文化を醸成していくこと以外に道はないのかもしれません。



プロフィール

野口好博(のぐち・よしひろ)

東京都小金井市在住 ソフトウェア開発系の会社勤めの頃から始めた野鳥撮影ですが、定年後も楽しみながら野鳥撮影を続けています。

亜種を含めてのライファー(※)は500種強、最近は、コロナ禍のせいもあり、思い通りには動けないのが悩みです。

​※野外で観察した種数

著書に、『魅力的な鳥達と自然 ~千島列島~』


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