鳥獣保護区を知っていますか?
- 奥山正樹
- 7 日前
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「自然発見!」の話題から少し外れるかもしれませんが、今回は「鳥獣保護区」に目を向けてみたいと思います。
鳥獣保護区の存在と名称は広く知られていますが、実際にどんな場所が指定されているのか、どのような規制を受けているのか、詳しく知っている人は少ないのではないでしょうか。
日本に鳥獣保護区が誕生したのは、1950年。敗戦後の占領下で行われた狩猟法改正によるものです。日本鳥類保護連盟が1947年に設立され、同じ1950年には愛鳥週間(バードウィーク)も定められています。当時の鳥獣保護区は、既にあった「禁猟区」に加え、とくに鳥獣の保護繁殖のために必要な場所を定めて、立木の伐採などの行為も規制される地域として創設されました(写真1)。その後1963年に「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」への大改正が行われた際には、それまでの禁猟区が鳥獣保護区に、鳥獣保護区が特別保護地区に移行され、現在の仕組みができあがりました。このため、現在の鳥獣保護区も、全体にかかる規制は狩猟禁止のみで、特別保護地区に指定されてはじめて一定の開発行為が規制されます。
鳥獣保護区がどのような場所に指定されるのかは、時代の要請に応じた指定区分の変遷とともに移り変わってきました。現在は、国が大規模生息地、集団渡来地、集団繁殖地、希少鳥獣生息地の4区分から、都道府県はこれらに加え森林鳥獣生息地、身近な鳥獣生息地、生息地回廊の計7区分から指定しています。
現在指定されている鳥獣保護区は全国に3,731カ所、3,515千ha(2021年11月時点)あり,日本の保護地域(陸域)の中では自然公園に次ぐ広さで、国土面積の9.3%に相当します。このうち国(環境大臣)が指定した鳥獣保護区は85カ所、591千ha(2025年4月現在)です。
各地の鳥獣保護区
左から北アルプス鳥獣保護区(冬のライチョウ観察)、仙台海浜鳥獣保護区(東日本大震災前)、霧島鳥獣保護区(観察小屋と給水施設)、やんばる(安田)鳥獣保護区、大東諸島鳥獣保護区(特別保護地区)
国指定鳥獣保護区では、全カ所について指定計画書と生息している鳥獣種のリストが作成されています。これを集計してみると、国指定の86保護区(2022年末)だけで総出現種数は,鳥類で533種,哺乳類(クジラ目を除く)で100種にも上りました。このうち、各地区で一般的に見られる種(一般種)として記載されていたのは,鳥類で362種(67.9%),哺乳類で65種(65%)でした。国土面積のわずか1.5%の地域で日本鳥類目録掲載種の79%が記録されたことになり、いかに多様な種が生息する重要な地域が選ばれているかがよくわかります。
鳥獣保護区の面積は、2010年頃をピークに近年は縮小傾向にあります。その内訳をよく見ると、狩猟獣などを対象にした森林鳥獣生息地や生息地回廊の区分での減少が顕著で、国指定鳥獣保護区などのその他の区分では概ね増大傾向が続いています。集団渡来地などにおいてラムサール条約湿地の登録を目指す過程で保護区が新設されたり、特別保護地区が拡張される例も少なくありません。
ラムサール登録湿地にも登録されている鳥獣保護区
左からサロベツ鳥獣保護区(夏のハクチョウ)、東よか干潟鳥獣保護区、出水高尾野鳥獣保護区(ツル越冬地)
狩猟者が減少し、シカ、イノシシ、クマなどと人間との軋轢が増大する中で、禁猟区として誕生した鳥獣保護区の役割はもう終わったと考える人もいるようです。しかし、長年にわたり鳥獣の生息地として重要な地域の指定を重ねてきた経緯をあらためて振り返り、国際的に重要性が高まっている保護地域としての機能を更に強く発揮できるよう、より効果的な制度に見直していくことが重要ではないでしょうか。



プロフィール
奥山正樹(おくやま・まさき)日本鳥類保護連盟評議員。1990年環境庁に入庁し30年以上にわたり自然環境行政に従事。屋久島管理官、鳥獣専門官、生物多様性センター長、信越自然環境事務所長などを歴任。鹿児島大学連合農学研究科で鳥獣保護区に関する研究により博士(農学)を取得。2024年4月から江戸川大学社会学部教授・国立公園研究所長。