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  • 執筆者の写真百瀬邦和

日本鳥類保護連盟とタンチョウ、そして今の私について

写真1 越冬地の様子

 日本鳥類保護連盟の創設者である山階芳麿博士は、鳥を保護することを目的とした団体として日本鳥類保護連盟(以下、連盟)を、そして鳥の研究を目的とした団体として山階鳥類研究所を設立したと聞いています。それ故でしょうか、どちらも渋谷の南平台にある同じ建物にありました。当時の建物は戦災にも耐えた重厚な佇まいで、いかにも日本の鳥の聖地を思わせる威厳があり、アルバイトなどで通った学生時代の私は、あらためて背筋を伸ばし、襟を正して入室したものです。当時、先輩で鳥の師匠の一人だった松田道生さんが就職していたことで敷居が若干低くなっていなければ、恐れ多くてとても入れない思いでした。その後、連盟は環境庁と一緒に全国干潟一斉調査を行なって渡り鳥条約やラムサール条約などへの参加につなげましたし、また当時はまだ根強く残っていた、猛禽類などの剥製を自宅に飾る風習をなくそうとしてバードカービングの普及を目指し、内山春雄さんという素晴らしい人を見つけたことで今の日本バードカービング協会の設立につながりました。連盟のこれらの活動は、タンチョウの保護・研究を行っている今の私の活動にも繋がっています。思えば、44年前に私が研修に行き、それ以来ずっと一緒に活動しているアメリカの国際ツル財団(ICF)には、設立早々の1973年に山階博士が理事に加わり、現地訪問もされていました。大学院卒業と同時にICFを創設したG.Archibald博士は、山階博士からの応援を今も強く感謝しており、現在私たちタンチョウ保護研究グループを理事として応援してくれているのは、往時の山階博士の思いと今の自分を重ねているのかもしれません。


写真2 総数カウント調査の様子

 Archibald博士が初めて北海道に来て調査を始めた1972年当時のタンチョウの確認数は200羽台の前半でした。現在の生息数は2000羽ほど(最新の確認数は1800羽)と推定されますから、50年で十倍近くにまで増えたことになります。実際、主な生息地である北海道の十勝・釧路・根室地方では、道路脇の畑や牧場などでかなり普通に見られるようになりました(写真1)。そして毎年冬に行われているカウント調査(写真2)で、年々数が更新され、北海道各地への分散が報道されてきたことも重なって、タンチョウは今も増え続けている、増え続けるものだ、という認識が広がっているようです。タンチョウはいつまで保護すれば良いのか、何羽まで増やせば良いのか、といった声まで出てきました。奇しくも、今年は釧路湿原でタンチョウが再発見されてから100年を迎えます。私たちが標識調査を継続していく中で推定した世代交代の間隔を当てはめると、8〜9世代分にあたります。人としては4世代分になるでしょうか。北海道のタンチョウが、これだけの時間をかけて、そして「(人との)共存」という言葉が出てきたということ自体が、保護活動がようやく次の段階に入ってきたということなのかもしれません。

 日本鳥類保護連盟の定款には「この法人は、…人と鳥類等の野生生物が共存・共生する社会の構築に寄与することを目的とする」と書かれています。共存する、とはCoexist(平和に生活する=平和に共存する)であるので、どちらか一方が平和であるだけでは成り立たないはずです。ツルも人も、鳥も人も共に平和に生活する世界の実現を目指す、ということになると思います。鳥が平和に生活し続けることは、人が平和に生活し続けることにつながっています。タンチョウとの共存という命題は、私の中ではタンチョウを通しての生命との共生というテーマに変わってきています。

 昨年、私はエストニアで開かれたツル研究会に参加してきました。この研究会は4年毎にヨーロッパ各地を巡回して開かれているのですが、今回はウクライナ戦争のために1年遅らせての開催でした。ヨーロッパではツル(クロヅル)は代表的な渡り鳥の一つですから、北方では完全な夏鳥だったり、地中海沿岸やアフリカでは通過鳥あるいは冬鳥だったりと地方によって様々です。そしてその数は全体で数十万羽を数えます。そしてヨーロッパのツル屋さん(Cranelogist)たちは、「ツルが好きだから」という理由でその研究と保護活動を続けています。以前のこの会議ではツルを保護する意味について議論になったこともありましたが、この、好きだから・・・というのが肝なのではないでしょうか。好きになると、その先にはもっとよく知りたい、一緒にいたい、何かあったら守りたい…。つまりは人とひととの関係と同じです。共生、共存とはそういうことだと思っています。Archibald博士が設立したICFの近くにアルド・レオポルド・ネイチャー・センターがあります。Aldo Leopoldは人を地球上の一構成員として位置付けたLand Ethicsの著者として有名で、ICFの活動には彼の考え方が強く反映されています。タンチョウをはじめとするツル類は多方面において人と対比されてきましたし、特に目線の位置に代表される体のサイズ、人に近い動き、特徴のある行動などが魅力的です。それ故、他者を好きになる際の対象として優れているからこそLand Ethicsの入口として意味を持っていると思います。

 タンチョウの調査で日頃話を聞くことの多い道東の牧場主から、うちでは牛をたくさん飼っているが、考えてみると我々は牛に飼われているのかもしれない、という話を聞かされることがあります。振り返って、私たち人は、本来幸せに生きるために科学や技術を発達させて使いこなしているつもりが、実はそれに振り回され、使われてしまっているような気がしてなりません。タンチョウを保護し共存していくことは、私たち人が所詮生き物のひとつでしかないことを再認識していくための作業になると思っています。

GPS発信機装着後の放鳥

冬季標識調査時の身体測定


プロフィール

百瀬邦和(ももせ・くにかず)。東邦大学生物科卒。山階研究所標識調査協力調査員を経て1986年より同研究所資料室勤務。2004年に退職し北海道にてタンチョウの調査活動に専念。2007年にNPO法人タンチョウ保護研究グループを設立し理事長。


タンチョウ保護研究グループ ホームページ

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