【活動内容】
令和5年度から学校水田で生息するナゴヤダルマガエルの保全活動を行っている。令和5年秋から冬にかけて水田内の越冬場所の調査をし、水田の冬期の生息場所を明らかにした。令和6年度の稲作シーズン中は、水田の中央を流れる土水路の畦面を、雑草防止とナゴヤダルマガエルをはじめ、生き物たちの住処づくりを兼ねて稲わらや植物残渣を敷き、一定の効果を確認することができた。
▽令和6年の稲作後からの取組
1 冬期に水田を利用した場合のナゴヤダルマガエルの越冬への影響について調査
近年、稲作農家の収益改善や食料増産に向けて、水田の高度利用化が地域によって進められている。高度利用化のひとつに稲作期以外の作物の栽培、二毛作がある。二毛作をする場合、耕耘や管理作業で機械、人の田んぼへの出入りが生じるため、ナゴヤダルマガエルの越冬に影響が出ると予想される。そのため、学校水田内で二毛作の実験区を設定し、PITタグを装着した個体を放し、行動を追跡調査した。この実験は株式会社テクノ中部の協力により実施した。実施時期は令和6年12月から令和7年2月である。栽培植物は学校周辺地域が冬期は菜類の栽培が盛んなことから、「宮内菜」を栽培した。畝にはマルチ代わりにこの秋に収穫後に回収した稲わらを活用した。
2 雑草管理、雑草の繁茂状況が生物に及ぼす影響
雑草がなくなることは、本当に生物にとって有益なことなのか。人間の都合だけで解釈していないかと、令和6年の土水路の稲わら被覆実験途中から疑問が生じた。
今年度は昨年に行った稲わらを土水路畦面に敷く効果の再確認をするとともに、実験途中から畦面と水路内に雑草を繁茂させ、雑草が生き物たちに及ぼす影響も調査することにした。実験区は昨年度設定した条件をベースに稲わらを敷いた。稲わらは流出や風化のため、6月に一部追加で敷いた。除草剤は4月に実験区を設定する前、まだ入水していない水路内及び畦面に散布した。実験区の予定場所には除草剤を散布しない場所も設定した。実験開始後、実験区以外は除草剤を定期的に散布した。雑草が繁茂、中干し後の8月末から9月上旬にかけて、土水路の実験区と実験区外に向けてタイムラプスカメラを設置し、土水路に餌を探しに飛来する野鳥が、雑草の繁茂状況に影響するか否かを検証した。
3 普及活動
普及活動では、学校祭や地域でのイベントへの出展、学会や研究会等への発表の他に、昨年から定期的に自然教室を自主開催している。自然教室はこれまでに7回開催した。多くの人を巻き込んで自然教室を開催したいと考え、愛知県内の大学生との連携も行ってきた。学校の所在地、愛西市が木曽川の河口ということで、木曽川の源流域である長野県木曽郡の木祖村の住民と上下流交流も開始した。この上下流交流では、木曽川からの水の恵みについて理解を深めるとともに、生徒達は取組んできた水田生態系の保全活動、ナゴヤダルマガエルの保護活動も紹介してきた。今年度は夏休み中、小学生とのオンライン交流や、9月には木祖村で子どもや大人を対象にワークショップも開催した。
REPORT
🎥活動PR動画 ナゴヤダルマガエルの保全に向けた水田利用と管理体系の構築
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【活動による成果・効果または活動によって今後期待できること】
1 冬期の水田二毛作条件下におけるナゴヤダルマガエルの越冬調査結果
栽培畝の端、肩あたりの稲わらの下で越冬する個体がよく見られた。また放逐後の移動距離は、確認できた個体10匹中、6匹が400㎝以内であった。行動距離が少ない理由は、放逐時期が12月で、カエルの行動に影響が出ていたことも考えられる。この調査では、越冬場所の土壌水分や地温、また地下へ潜る深さも判明した。これらの結果を基に、翌年の稲作シーズン開始前の耕耘から、ロータリ耕を浅耕とし、カエルの機械への巻き込み防止を図った。
2 土水路のカエル類や生物の調査及び雑草の繁茂状況が生物に及ぼす影響の調査結果
土水路の実験区で確認したカエル類は、ナゴヤダルマガエルがほとんどであった。敷きわらを敷く効果は、昨年同様稲わらを敷いた実験区の方がナゴヤダルマガエルの確認数は多かった。田植時期の5月と土水路の畦から水路一面にかけて雑草が目立ちはじめた6月の調査を比較すると、明らかに6月の方がオタマジャクシやドジョウの数は多かった。7月、実験区の水路全体に雑草が繁茂してからの調査では、特に雑草量多い実験区ほど、オタマジャクシの個体重は大きかった。
8月末から9月に上旬にかけて実施した土水路に飛来する野鳥の調査では、既に雑草に覆われた実験区よりも、雑草が少ない実験区外の方が飛来数は多かった。
3 環境にやさしい農法の提唱、今後に向けて
今年度の調査結果を踏まえて、学校内の別の水田や一般水田でみられるコンクリート3面張り水路と調査対象とした土水路とでの、管理面や生物多様度について比較検討した。調査や保全活動で得た経験から、今後、生徒たちは環境に優しい農法・稲作の普及を提唱していきたいと考えている。
昨年度から名古屋市立大学総合生命理学部とも交流をはじめた。ナゴヤダルマガエルの遺伝子解析の研究も開始したところである。学校所在地の愛西市にコウノトリが飛来するようになったことから、今後は水鳥と水田との関係、コウノトリが舞い降りる水田に向けた研究も行っていきたい。
4 普及活動、自然教室から得たこと
自然教室では、毎回、子どもたちに何を伝えたいか、特に水田に関係する生き物をどのようにわかりやすく伝えるか、工夫を重ねた。生き物の活動をリアルに伝えたいと考え、水路にタイムラプスカメラを設置して撮影も行い、子どもたちに見せてきた。
今年の9月、長野県木祖村で行ったワークショップでは、水にまつわる生き物の環境を伝えるために、ハスの葉をから自然素材の絵の具を作成し、お絵描きをしながら、水田環境の大切さを伝えた。
参加・協力するする大学生も増えつつある。昨年度はサークルとして協力をしたのは、名城大学野生動物生態研究会の1つであったが、今年度は名城大学教職研究会や名古屋大学生物研究会も新たに協力していただけるようになった。特に教職研究会や教職課程を履修している学生たちにとっては、子どもたちとの接し方、教え方を学べる場所だと好評であり、回を重ねるごとに学生の参加者も増えている。自然教室の取り組みが科学部の生徒だけではなく、将来教員を目指す学生たちの学びの場にもなりつつある。
【アピールポイント(活動において特に工夫したこと、注意・注目したことなど)】
1 高校生でもできること、高校生でもチャレンジできること
この取組では学校水田をフィールドに研究活動を行っている。高校生の力でやれることを第1にこれまで活動してきた。今回の冬期二毛作の実験でも、生徒達はなるべく学校の地域に適する野菜を検討し、栽培しながら実験を続けた。農業高校の生徒として生物や環境の研究だけではなく、栽培を通じて地域の社会的課題も考える姿勢で行ってきた。
ナゴヤダルマガエルの体内へのPITタグの挿入に関しては、高校生としてのチャレンジである。はじめはPITタグ以外、塗料の塗布を中心に考えたが、指導を仰いでいる研究者が行う手法を自分たちもやってみたいと考え、行うことにした。動物愛護の観点からカエルになるべく負荷をかけない挿入位置を、協力会社の技術者と一緒になって考えもした。
冬期に水田を二毛作で利用したケースでのカエル類の越冬調査は、国内では私たちの調査が初めてと思われる。調査規模は小さかったが、貴重なデータが得られたと考えている。
2 常識にとらわれない思考を目指す
雑草との闘いが農業の歴史である。しかし、雑草の克服は人間以外の生物には絶対に有益とはならない。昨年夏の実験の後半、土水路に雑草が無くなりきれいな状態になってから、野鳥の飛来が多くなった。生徒達は、雑草が無くなったために今度は守ってきたナゴヤダルマガエルが食べられやすくなったのではないかと考えた。そこで今年度、雑草をもう一度繁茂させて検証することにした。
生徒達は水田を管理する教員と意見を調整しながら土水路内の実験区で、再度雑草を繁茂させ、調査を実施した。今回の調査結果から水路内に雑草がある方が、ナゴヤダルマガエルやドジョウ、その他多くの生物にとって住みやすい環境になったと考えられる。反面、水の生き物を糧とする鳥類には、負の影響にもなった。
これらの結果から生徒達は、水田から雑草を完全に無くすのではなく、一部に雑草を残してもよいのではないかと今後、訴えていきたいと考えている。水田の大半は雑草がないため、鳥類への影響はごく一部といえる。雑草を残すことは、害虫や害獣の住処になる危険性もあり、農家は嫌がると思われる。反対意見に真摯に向き合うとともに、これまでの取組を丁寧に説明し、理解を求めていきたい。
3 協力者たちから人間性、大人としての素養を学ぶ
協力者の多く、大学生は生徒と年齢は近いが大人でもある。生徒達は自然教室を通してこの1年半で大きく人間性は成長した。昨年の開始頃は、顧問が主導せざるを得ない場面もあった。現在は日程を教員が決めた後は、企画はほとんど生徒達で決め、大学生との交渉も生徒で行っている。大学生との共同作業を通じて、大人としての態度を学ぶとともに、大学で農業や環境を深く学びたいと考える生徒も増加した。大学4年生の参加者には本校科学部卒業生のOBたちもいる。OBのひとりは今年の愛知県教員採用試験にも合格し、来年から教員となる。大学生や卒業生の姿は、生徒に身近な目標となり、科学部、更には学校生活で飛躍的に生長する子も増加した。


























