【活動内容】
本校サイエンス研究会生物班5年の片岡憲伸は、奈良県で絶滅寸前種に指定されている水生昆虫ヒメタイコウチの「生息域外保全担い手育成プログラム」に2022年度より参加し、本種の飼育観察と普及啓発活動を継続的に行ってきました。
本プログラムは、ヒメタイコウチの種の保存と認知度向上を目的として奈良県環境森林部 景観・自然環境課が企画・運営し、奈良学園中学校・高等学校と本校の2校が参加しています。地域の専門機関として、橿原市昆虫館、五条市ヒメタイコウチを守る会と連携しながら、複数箇所において飼育下個体群を維持することを目指して本種の飼育・増殖に取り組み、その研究成果を校内外で発表することで、ヒメタイコウチの認知度向上と生息環境の保全のための普及啓発活動を続けてきました。
(1)ヒメタイコウチの繁殖に向けた飼育研究
ヒメタイコウチの生態解明に向けて、4年間その飼育・繁殖に取り組んできました。
2022年度:屋外での生息地(ビオトープ)の調査・観察
譲渡された成虫からの採卵、譲渡された幼虫の飼育・観察
橿原市昆虫館での活動報告(情報交換、専門家からのアドバイス)
2023年度:譲渡された成虫からの採卵・孵化・幼虫の飼育・観察
橿原市昆虫館での活動報告(意見交換、専門家からのアドバイス)
2024年度:譲渡された成虫からの採卵・孵化・幼虫の飼育・観察
他校視察会(各学校の飼育環境などを見せ合う、専門家に見てもらう)
橿原市昆虫館での活動報告(意見交換、専門家からのアドバイス)
2025年度:譲渡された成虫からの採卵・孵化・幼虫の飼育・観察
譲渡された幼虫の飼育・観察
(2)研究成果報告による普及啓発活動
ヒメタイコウチを広く知ってもらうために校内外で本種の紹介と研究成果報告を行いました。
校内での活動:本校の学園祭において、生体展示およびポスター展示(2022年度~2025年度)
本校オープンスクールにおいて、小学生にヒメタイコウチの説明(2024年度)
令和6年度SSH校内発表会にて研究成果をポスター発表
令和6年度探究成果発表会において研究成果をポスター発表(別添資料5)
令和6年度SSHサイエンス研究会研究論文集に論文を投稿(別添資料6)
令和7年度SSH全国大会校内選考会にて研究成果を口頭発表(別添資料7)
校外での活動(予定も含む):
2024年度 日本動物学会近畿支部 秋の高校生研究発表会において研究成果をポスター発表
2024年11月 奈良テレビ「笑い飯 西田のてくてく大喜利」番組内にて研究成果を発表
2025年12月 タイ王国政府主催の科学フェアTJ-SSFにて研究成果を発表
友人とともにヒメタイコウチを普及するアプリの開発
2026年3月 第73回日本生態学会大会ジュニアポスター発表で研究成果を発表
REPORT
✨活動PR資料
【活動による成果・効果または活動によって今後期待できること】
(1)4年間にわたる飼育研究の成果
ヒメタイコウチは生態が解明されていない部分も多く、本種の保存のためには飼育観察から得られる科学的知見を集積していくことが求められています。本研究では、成虫や幼虫の飼育を通して、適切な飼育環境や餌などを明らかにしてきました。さらに、2025年度には、初めて卵から成虫まで飼育することに成功しました。この研究成果は、ヒメタイコウチを保護していく上でも非常に重要な意味を持つと考えています。また、来年度は今年度の成虫から採卵し、継代飼育に挑戦したいです。
【4年間の飼育状況の概要】
2022年度:譲渡された成虫から、交尾・産卵を確認したが、幼虫は孵化しなかった。
譲渡された3齢幼虫を飼育したが、脱皮に至らず、全個体死亡した。
2023年度:譲渡された成虫から、交尾・産卵を確認し、幼虫の孵化にも成功した(30個体)。
全個体30匹のうち10匹が2齢、1匹が3齢まで成長したが、4齢になった個体はいなかった。
2024年度:譲渡された成虫から、交尾・産卵を確認し、幼虫の孵化にも成功した(28個体)。
全個体28匹のうち18匹が2齢、8匹が3齢、7匹が4齢、4匹が最終齢の5齢まで成長したが、成虫になった個体はいなかった。
2025年度:譲渡された成虫から、交尾・産卵を確認し、幼虫の孵化にも成功した(5個体)。
全個体5匹のうち1匹が4齢、1匹が成虫になった。【幼虫から成虫への飼育に初成功】
また、譲渡された3齢幼虫10匹を飼育し、4匹が成虫まで成長した(現在飼育中)。
(2)ヒメタイコウチの認知度向上と野生生物保護の意識の高まり
この活動を通して、ヒメタイコウチを知らなかった人が、興味を持って話を聞いてくれる場面を数多く経験しました。研究成果発表会や学園祭などで、ヒメタイコウチの生体を展示し、生息場所や個体数が減少している実態を伝え、自分たちの取り組みを広く知ってもらうことで、参加者の野生生物保護の意識が高まり、保全活動の意義や、人間と自然との関わり方について考えるきっかけを作ることができました。
【アピールポイント(活動において特に工夫したこと、注意・注目したことなど)】
(1)誰でもできる飼育方法の模索
ヒメタイコウチの飼育に関しては基本的に一人で行ったため、個体数が増えてくると餌の確保が問題となりました。特に若齢期は小さなダンゴムシを好むため、十分な量の餌を確保することがとても大変でした。そこで、本校でイモリの餌として使用していた冷凍アカムシに着目し、ダンゴムシの代わりに冷凍アカムシを餌として与えることが可能かを実験しました。一般的に、ヒメタイコウチが属するカメムシ目は生餌でしか飼育できないことが知られており、これまでカメムシ目を冷凍のエサで飼育した前例はありません。そこで実験的に、ヒメタイコウチの飼育容器内に解凍した冷凍アカムシを入れてみたところ、餌として認識し、捕食することが明らかとなりました。本研究から、この方法で3齢幼虫までは問題なく成長することがわかったので、4齢以降は餌をダンゴムシに切り替えて飼育する方法を確立したいと考えています。この方法が確立できれば、若齢期の飼育コストを大幅に削減し、誰でも簡単に飼育することが可能となります。
(2)外部機関・他校との意見交換
一人で研究していると、研究の方向性が正しいのか不安になったり、自分の解釈が正しいのかわからない場面が度々あったので、専門機関や他校と連携し、積極的に外部からの意見を取り入れることを意識しました。年に数回、奈良県景観・自然環境課や橿原市昆虫館、五條のヒメタイコウチを守る会の方々と飼育状況についての報告を行い、自分の考えを述べたうえで、専門的な視点からのアドバイスをいただきました。また、同プログラムに参加している奈良学園中学校・高等学校の生徒と連絡先を交換してお互いの飼育状況を共有したり、意見交換なども行い、本研究を円滑に進めることができました。
(3)「楽しむ姿勢」を忘れない
生物の飼育はその方法が確立されるまで、時間と根気を必要とします。特に今回のように、生餌を与えて飼育する場合は、大変な労力を要しました。4年間のヒメタイコウチ飼育研究は、何度も心が折れそうになりましたが、どのような状況でも「楽しむ」ことを意識するように心がけました。それが最後まで一人でやり続けられた秘訣だと思います。
ダンゴムシを捕まえたり、飼育容器内の水を入れ替えたり、毎日同じことを繰り返していると飼育が単なる作業のようになってしまうので、小さな変化を見逃さないように目の前の現象に疑問を持ちながら飼育を行ってきました。どれだけ丁寧に飼育していても死亡する個体が出てきて、落ち込むこともありましたが、餌を捕食する瞬間に立ち会ったり、脱皮をしてすくすく成長しているヒメタイコウチの姿を見るのがとても嬉しかったです。そういう気持ちを大切にしながら、この4年間ヒメタイコウチと向き合ってきました。







