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【学校名】

高校

秋田県立新屋高等学校

【活動タイトル】

秋田県立新屋高等学校

地域の宝を未来へつなぐ 
~厄介者を価値ある資源に!!~

【活動内容】

 本校の近隣に位置する大森山動物園内の「塩曳潟」は、国内でも希少なゼニタナゴやシナイモツゴ、キタノアカヒレタビラなどが生息する、世界的に見ても貴重な生物多様性のホットスポットである。しかし、この「地域の宝」は、繁殖力の強い外来種、特にウシガエルやアメリカザリガニの捕食によって絶滅の危機に瀕している。
この状況を看過できないと考えた我々は、地域の専門家(秋田市大森山動物園、NPO法人秋田水生生物保全協会、秋田県立大学など)と連携し、在来水生生物の保全と外来種の駆除活動を開始した。さらに、本活動を一歩進め、「駆除するだけで終わらせない」という課題に挑戦した。駆除したアメリカザリガニを廃棄物としてではなく、付加価値を持つ「資源」として捉え直すことはできないか。この発想から、
①有機肥料としての活用と、
②釣りの疑似餌(ルアー)へのアップサイクルという、2つの有効活用法の研究開発にも取り組んだ。

 本活動研究は、地域の生態系保全(SDGs 15:陸の豊かさも守ろう)に直接貢献すると同時に、廃棄物の資源化(SDGs 12:つくる責任 つかう責任)と、地域内での資源循環(サーキュラーエコノミー)を実現することを目指すものである。

【活動内容と活動研究方法】
(1) 在来水生生物の保全と外来生物の駆除活動
期間: 4月~9月(継続中)
場所: 秋田市大森山動物園 塩曳潟
方法::「モンドリ」と呼ばれるカゴ罠を複数設置し、週に一度の頻度で回収する 。捕獲した生物はすべて種類を同定し、個体数と体長を記録後、在来種はその場で放流し、外来種(ウシガエル、アメリカザリガニ)は駆除対象として回収する 。

(2) アメリカザリガニの有効活用研究
期間: 4月~7月
場所: 新屋高等学校
方法:
①有機肥料としての活用
駆除したアメリカザリガニを高温粉砕機で粗く砕いた後、コーヒーミルでさらに微細なパウダー状にした 。このパウダーを「アメリカザリガニ肥料」とし、コマツナの栽培実験を行った。今年度は「最適施肥量」の調査を目的として、アメリカザリガニ肥料を10g単位で変えた区画(20g~80g)と、化成肥料区、無肥料区を設置し、最終的な収穫量を比較した 。
②釣りの疑似餌(ルアー)へのアップサイクル
①で製作したパウダーを活用し、Eco-Gummy Fishing Clubと共同で、生分解性素材のグミワーム(疑似餌)を開発した。コンセプトは「環境に優しい釣り具」であり、マイクロプラスチック問題と外来種問題への意識向上を目的とする 。製作資金はクラウドファンディングを通じて調達し、完成した疑似餌で実際に海釣りを行い、釣果を検証した 。

REPORT

【活動による成果・効果または活動によって今後期待できること】

(1) 在来水生生物の保全と外来生物の駆除活動
モンドリ調査では、今年度の在来種の捕獲数が大幅に減少するという結果になった 。しかし、並行して行った定置網調査では、キタノアカヒレタビラやシナイモツゴ、さらにはゼニタナゴの稚魚も多数確認されており、生息自体は確認された。一方、外来種は依然として捕獲されるものの、ウシガエルの成体数やアメリカザリガニの採捕数は減少しており、駆除活動の成果が見られた。そのため、最近は在来種のアカガエルのオタマジャクシが観察できるようになっている。

(2) アメリカザリガニの有効活用研究
①有機肥料としての活用
アメリカザリガニのパウダー成分を秋田県産業技術センターにて分析した結果、主成分は植物の細胞壁を強くするカルシウム(75%)であり、その他にも窒素(3.6%)やリン(3.6%)など、多様なミネラルが含まれていることが判明した。
 このアメリカザリガニのパウダーを用いたアメリカザリガニ肥料を用いて、コマツナを栽培した。コマツナの栽培結果、収穫量が最も多かったのは「アメザリ肥料30g」区で、200gを記録した。これは化成肥料区(112g)の約1.8倍に相当する。アメザリ肥料30g以上の区画は、すべて化成肥料を上回る収穫量となり、アメザリ肥料の有効性が改めて証明された。
*無肥料に関しては、昨年度の化成肥料と無肥料の関係から算出した参考値
②釣りの疑似餌(ルアー)へのアップサイクル
開発した「アメリカザリガニグミワーム」を用いた実釣テストでは、カサゴやメバル、ソイといった根魚を中心に、使用者から高い評価を得る釣果を記録した 。製品は、美術の授業でデザインを依頼したオリジナルパッケージに入れ、地域のイベントなどで活動報告と共に紹介した。

【活動における考察】
(1) 在来水生生物の保全と外来生物の駆除活動
継続的な駆除活動により、アメリカザリガニの個体数を着実に減少させられている点は、本活動の明確な成果であると考えられる。一方、モンドリ調査における在来種の捕獲数減少は、近年行われた護岸工事が、魚たちの隠れ家となる水草や緩やかな岸辺を減少させ、生息エリアを変化させた可能性が考えられる。今後は定置網など複数の調査方法を組み合わせ、より正確な生態系モニタリングが必要である。

(2) アメリカザリガニの有効活用研究
①有機肥料としての活用
アメリカザリガニ肥料が、市販の化成肥料を大きく上回る収穫量をもたらしたことは、本研究の大きな発見である 。特に30gという最適施肥量を見出せたことは重要な成果と言える 。これは、外来種を、地域の農業に貢献できる「地域循環型有機肥料」として活用できる可能性を示唆する。
②釣りの疑似餌(ルアー)へのアップサイクル
アメリカザリガニグミワームの成功は、「侵略的外来種の駆除」と「海洋プラスチック問題の解決」という、2つの環境問題に同時にアプローチできる画期的なアイデアであることを証明した。ただし、どの成分が集魚効果を持つのか、といった科学的な定量的データの取得は今後の課題として残った。

【今後期待できること 及び 今後の展望】
本活動研究は、地域の自然を守る「保全活動」と、そこから生まれる廃棄物を価値に変える「活用研究」を両輪で進めることに意義がある。
①保全活動の深化
今後も駆除活動を継続し、本来あるべき生態系の姿への回帰を目指す。同時に、在来種の個体数減少の原因究明を進め、より効果的な保全計画を立案・実行していく。

②アメリカザリガニ肥料の実用化
最適施肥量が判明したコマツナ以外の作物(根菜類など)での効果も検証し、地域の農家と連携した実証実験を目指す 。また、どの成分が成長を促進しているのかを特定し、より効果的な肥料開発につなげたい 。

③アメリカザリガニ疑似餌の展開
集魚効果の科学的メカニズムを解明し、定量的な釣果データを収集する。将来的には、この製品の持つ環境的価値を広く伝え、商品化を通じて活動資金を生み出し、持続可能な保全活動サイクルを構築することを目指したい。

【アピールポイント(活動において特に工夫したこと、注意・注目したことなど)】

(1)廃棄物を資源へと変換する発想
駆除した外来種を「処分」ではなく「地域資源」として活用し、循環型の仕組みとして提案できる取組は特にアピールしたいポイントである。特に、肥料化に関しては、特殊な技術は不要で、継続的なマンパワーがあれば肥料生産は容易である。従って、障がい者雇用や就労支援の一つとしてのビジネスモデルとしても提案可能で、大きな可能性を秘めた取組であると自負している。

(2)学際的な連携と協働
活動そのものが、動物園や大学、NPO法人・釣り愛好家団体など、多様な地域パートナーと連携した取組となっており、お互いに良い刺激となっている。また、美術の授業でパッケージデザイン作成に取り組むなど、教科横断的な活動にもつながっている。

(3)資金調達と社会実装への挑戦
クラウドファンディングを活用し、単なる研究活動にとどまらず、社会的な共感を得ながら活動を展開している。特に、秋田県内での注目が高まり、ケーブルテレビやラジオ局から出演依頼もいただいた。

(4)教育的工夫と発信力
活動成果をイベントやメディアを通じて紹介し、地域住民に「外来種問題×資源循環」の意義を広く共有している。また、実際に「釣れる」体験を提供することで、環境問題を身近に感じさせることにも繋がっている。

(5)持続可能性への意識
肥料の最適施肥量をデータで明示し、農業利用の実用化を見据えた研究設計に取り組んでいる。また、疑似餌の集魚効果や環境価値を検証し、商品化・資金循環による持続可能な活動モデルを目指している最中でもある。本校では「合同会社あらこう」という会社を立ち上げており、今現在、この会社を舞台に商品・資金循環についても実地研究中である。

​【学校ホームページ】
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