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2021
​10/7

天高くタカの舞う奄美大島の秋

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写真1.サシバ

上昇気流に乗って

 9月の奄美大島はまだまだ残暑が厳しく、短パンとTシャツでふつうに過ごすことができます。それでも夜明けの空気が少しだけひんやりしてきて、どことなく秋の気配を感じるようになってくる月の中旬、晴れた朝は弾む心を携えていそいそと高台にのぼります。明るくなった森の樹冠部では、ルリカケスが鳴きながら飛び回ったり、ズアカアオバトが間の抜けた声で鳴いていたり。
 太陽が姿を現してしばらくすると、山裾から霧が空に向かって立ちのぼっていきます。大気が暖められ、上昇気流が発生しているのです。と、その気流に乗って、旋回しながら空にのぼっていく1羽のハトくらいの大きさの鳥が。お目当てのアカハラダカです。双眼鏡で姿を追っていくと、いつのまにか他のアカハラダカが上空で数羽、大きな輪を描いているではないですか。ふと、近くの電柱に目を転じると、別のアカハラダカが1羽、すぐにも飛び立ちたそうにうずうずしています。その名の通り腹部がほんのり赤く染まったオスの個体です。やがてこのオスも飛び立ち、上空で待機している仲間たちと合流しました。観察地点の高台周辺では、アカハラダカは20羽ほどの小群となって飛んでいきました。
 気がつくと周囲の森からヒンヒンヒンと金属的な声が響いてきます。気温が上がり、オオシマゼミのオスがメスに求愛をはじめたのです。どこで鳴いているのだろう。双眼鏡で探すものの、簡単には見つかりません。

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写真2. 朝日とルリカケス
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写真3. 飛び立つ寸前のアカハラダカのオス
鷹団子が空に浮く
 「11時の方向、雲の下あたり!」
​ 一緒に観察をしていたメンバーが上空を指差して叫びました。すぐに目を転じましたが、肉眼ではなにもとらえることができません。しかし、双眼鏡を当てて、びっくり! おびただしい数のアカハラダカが塊になって空に浮いていたのです。その数、およそ800羽。蚊柱ならぬ鷹柱、いや、鷹団子と呼んだほうが適切でしょうか。しばらく観察していると、鷹の団子はさらに数を増し、大集団で南方向へ流れていきました。
衛星発信機による調査によると、アカハラダカは丸一日で韓国の済州島から西表島まで飛ぶ能力があることがわかっています。奄美大島を朝出発したタカたちは、今日はいったいどこまで飛んでいくのでしょう?
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写真4. 空に浮く鷹団子の一部
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写真5. 南に向かって流れはじめた鷹団子
空から降り注ぐ声
 アカラハダカの渡りがひと息つくと、今度は空からピックィーという声が降り注ぐ季節になります。サシバの声です。日本本土や朝鮮半島で繁殖したサシバが越冬のために南へ渡っているのです。サシバの越冬地は南西諸島から東南アジアにかけて。奄美大島にとどまって冬を越す個体もいれば、遥かニューギニア島あたりまで飛んでいく個体もいます。
 10月の朝、島の南部で待っていると、さらに南へ向かうサシバを観察することができます。とある集落の港に寝転がって空を眺めていると、次から次にサシバが飛んでいきます。飛び立ったばかりなので高度が低く、1羽1羽の模様がはっきり見えるのが実に楽しい。縦斑が目立つ幼鳥が飛んだかと思えば、胸がしっかり焦げ茶色のベテランもいます。運がよければ、暗色型のサシバに出会うことがあります。木に止まっているときは全身が焦げ茶色に見えますが、翼を広げると風切羽が白いことがよくわかります。
 里山環境が減り、絶滅危惧種に指定されたサシバですが、奄美大島では多くの越冬個体を観ることが可能です。サトウキビ畑のスプリンクラーの上にサシバの姿を見かけるようになれば、奄美はすっかり秋です。
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写真6. すぐ近くの枝から飛び立とうとするサシバ
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写真7. 翼を広げた暗色型のサシバ

プロフィール

鳥飼久裕(とりかい ひさひろ)
福岡県生まれ。出版社勤務を経て2000年4月に奄美大島に移住。NPO法人奄美野鳥の会会長として、オオトラツグミ一斉調査など野鳥を中心とした生物の調査や保護活動を精力的に行っている。本業はミステリー作家で、鳥飼否宇(とりかい ひう)、碇卯人(いかり うひと)のペンネームで「中空」「官能的」「死と砂時計」、「ブッポウソウは忘れない」、相棒シリーズのノベライズなど著書多数。

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