【活動内容】
祖父母の家の近くの山では、6年ほど前から、イノシシ被害を始めとする鳥獣による被害が多発している。そのため、被害対策を論じることで、その地域で野生動物と共存していくための方法を考えるべく、2022年に、「鳥獣被害を防ぐために、鳥獣と適切な距離を保ちながら生きていくための対策法」というテーマでレポートを作成した。その中では、柵を設置することの必要性を述べた。
しかし、祖父母が住む地域の実情や関連論文を調べるうちに、ある事実に気がついた。柵を設置することで、鳥獣被害は減少するものの、完全に無くすことはできていないという現状だ。その理由は主に2つある。
1つ目は、鳥獣が柵に慣れてしまうことだ。最初は警戒して、田畑への侵入を避けるが、時間が経つと、食べ物をとるために鳥獣は柵を越える方法を学習してしまう。時間と費用を割いて用意した柵も意味をなさなくなる。これが現在、深刻な問題となっている。
2つ目は、費用の問題だ。電気が流れている柵であれば、鳥獣は痛みを感じ、侵入を諦める可能性が高い。しかし、被害が多いのは、高齢化が進んだ地域付近であり、高額な柵を購入できる人は限られている。そもそも、電気柵を購入する余裕がない人も多く、強力な柵を広範囲に設置することは難しいのが現状だ。
これらの理由が解決されなければ、鳥獣被害を完全に防ぐことはできない。この課題を解決するために、私は複数の被害対策案を調べ、最も効果的な策について検証した。2022年から実際に山の中に入り、トレイルカメラを設置して、動物の特定を行い、地域の人へのインタビューや獣道の捜索も実施した。
トレイルカメラに映った映像から種類や月齢を確認し、行動を記録することで動物ごとの行動パターンを分析し、被害対策の内容の見直しも行っている。 効果的な最善策を論じる理由は、人間に被害が及ばないようにするためだけではない。人間を含めた地球上のすべての動物が心地よくこの環境下を生きていくためである。お互いが適切な距離を保てば、利害の対立は起こらず、平和な世の中になるはずだ
REPORT
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【活動による成果・効果または活動によって今後期待できること】
1. 地域の人へのインタビュー 祖父をはじめたくさんの方にインタビューを行った結果、鳥獣被害対策を行うために用いる道具にはそれぞれメリット・デメリットがあり、動物の種類によって使い分ける必要があることが分かった。また、動物の感染症によって、被害が一時的に減少することもあると知り、鳥獣被害対策を考える上で新たな視点を得ることができた。さらに、地域全体で話し合いを重ね、協力して実行に移すことの重要性も確認できた。対策が一部だけ手薄だと、そこが狙われてしまうため、地域全体での取り組みが必要不可欠となってくる。インタビューを通して、必要な対策の方向性をより明確にすることができた。
2. 実際の山を見る 自分の足で被害地域にいくことで、獣道やヌタ場を実際に発見することができた。そして、動物の通り道を把握することで、どこで対策を強化するべきなのかを明確にした。山の中には電気柵で対策されている畑が多い一方、網だけで対策している畑もあり、地域全体としての対策は不十分だと感じた。今後は、このような状況を踏まえ、より効果的な対策を検討していく必要がある。
3. トレイルカメラの設置 どのような動物が生息しているのかを明らかにするため、トレイルカメラを設置した。カメラにはイチジクの木に登っているハクビシンの姿や、電気柵に接近した後に山へ戻るイノシシの姿が映っており、彼らが食べ物を求めて人里近くまで降りてきていることが確認できた。それと同時に、電気柵は、野生動物たちにとって「恐ろしいもの」として認識されていることが明らかになった。さらに、時間帯や月齢ごとの動物の行動パターンの記録を行うことで、動物の種類ごとの動き方を把握できた。そして、それぞれの動物がカメラに写った回数から、その地域に多く生息する動物の傾向が予測でき、地域の人々との対話を通じて、重点的に対策すべき対象を共有することができた。実際に映像から野生動物の姿を確認したことで、共存したいという思いが一層強まり、今後も活動を継続していきたいと感じた。
【アピールポイント(活動において特に工夫したこと、注意・注目したことなど)】
私たちは東京に住みながら、石川県の山奥を研究対象として調査を行ってきた。しかし、現地に頻繁に足を運ぶことは難しかったため、行けない時期にはトレイルカメラを設置し、地域の人へのインタビューや文献調査を進め、現地に行ける際には実際に山に入り調査を重ねてきた。 限られた情報の中でも、できる限り多くのデータを集め、視覚的にわかりやすく整理することで、動物の行動パターンを読み取りやすくした。
また、月齢と時間帯に注目して調査を進め、地域に生息する動物の可視化を実現した。自分たちの調査をより明確にするため、他地域の取り組みとも比較しながら、研究対象の街に最も適した被害対策とは何かを深く考察した。そして、その成果を1つの論文にまとめ、昨年に校内で開催された論文発表会にて約300人の前で発表し、鳥獣被害の深刻さ、野生動物との共存の重要性と難しさを訴えた。
2024年に発生した能登半島地震の影響で、研究対象地域の住民は大幅に減少し、2021年にトレイルカメラを設置した場所も人が立ち入らない地域となってしまった。今後もこの研究を継続することで、野生動物の人里への侵入を防ぎ、共存可能な環境づくりに貢献していきたい。







