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【学校名】

高校

京都府立宮津天橋高等学校

【活動タイトル】

京都府立宮津天橋高等学校

森・里山を知り、つくる 
~残された地域の財産を伝えるために~

【活動内容】

 フィールド探究部は「地域で科学、地域を科学」「ホンモノを感じろ!」をモットーに京都府丹後地域で活動しています。学校の近くを流れる大手川では、多様な生物が暮らせるような環境づくり、小学生や地域の人たちと一緒に川を学び楽しむイベントの企画・運営を行っています。それだけでなく、森・里山でも自然環境や生き物を守り伝える活動を展開し、流域全体が豊かになることを目指します。今回紹介するのは、森・里山での活動です。

1. 森での活動
 まず、豊かな自然環境の象徴である巨樹の調査です。古くから生き物たちの拠り所や人々の信仰の対象であり、地域のシンボルとなっている巨樹ですが、全国的に調査が進んでいません。2017年時点で丹後地域の確認数はたったの140本でした。そこで先輩たちは、メジャー片手に神社仏閣を訪れたり山に登ったりして、木の大きさを測りました。2023年までに確認した60種2720本のデータを樹種・幹周・生息地といった観点から分析し、その結果をまとめた「海の京都・丹後の巨樹ものがたり」を発刊しました。また、巨樹の調査をしているとたくさんの出会いがあります。その一つが、上宮津で発見した巨樹と祠です。傷んでいた木を樹木医さんが治療し、古くなっていた祠も新しく建て替えました。現地に足を運んだからこそ、地域の人たちの大事なものが見つかりその保全に力添えできるのです。調査は後輩に受け継がれ、今も続いています。これまでに594の神社、253の仏閣や地域の山々を調査し、67種3245本の巨樹を確認しました。今後も丹後各地に赴いて巨樹を調査し、森の魅力を発信していきたいです。
 次に、森林を学び楽しむイベントの企画です。今年5月、内山ブナ林を舞台に小学生を対象とした森林学習を開催しました。キーワードは、二つの「感じる」です。一つ目は、「ホンモノの自然を感じる」。京都最大のブナの幹周を計測し、以前の記録より大きくなっていることを確認しました。木の成長を感じることで、森の中の命について考えてもらう機会になります。二つ目は、「今と昔の暮らしの違いを感じる」。集落跡で「人の暮らしの跡探し」を行い、お茶碗のかけらや壊れた鉄製の農機具を見つけました。その後、山を登りながらクイズを出して「なぜ昔は人と森の距離が近かったのか」をファシリテーターの高校生と一緒に考えます。昔は燃料や建材として森を利用していたこと。生活スタイルの変化で今は直接関わる機会が少なくなり、それに伴って森に住む生き物たちも減っていること。だから学びや遊びをきっかけに人が森に関わる必要があること、を知ってもらいました。しかし、手を加え過ぎると自然破壊になってしまいます。人が森と良い距離感を保ち続けることは簡単ではないのです。昔の人はどのようにして森とうまくやっていたのか、それを伝えるのが「あがりこ」です。木の低い位置から枝分かれするいびつな形は、昔伐採された木の切り株から新たな芽が出てそれが成長したことで形成されました。再生しやすいように工夫していた証拠になります。歩きながら「あがりこ」を見つけ、「なぜこんな形になったのか」というクイズを通して先人の知恵を学びました。このように、自然と触れ合いながら森について学ぶことができるイベントは、子供たちが森と共に生きていくことの大切さを実感できる場となっています。より深い学びが得られ、自然をさらに楽しめるイベントとなるよう、ブラッシュアップしていきたいです。

2. 里山での活動
 はじめに、絶滅危惧種サンショウモの保護・研究です。宮津市下世屋では化学肥料や除草剤を使用せずに稲作が行われていたため、そこの水田が京都府で唯一のサンショウモ自生地でした。しかし、農家の高齢化や獣害、水害などで水田の維持が困難になり、今ではサンショウモの生息できる環境が少なくなっています。危機感を覚えた先輩たちは、サンショウモの耐陰性や除草剤耐性、生育適温を調べ、生育に適している環境を明らかにしました。さらに、学校の池での域外保全や現地(下世屋)でのビオトープづくりを行い、保護を可能にしました。 
 一方で、サンショウモは多くの農家から水田雑草として取り除かれる存在です。なぜならサンショウモが水田を覆うことで日光を遮り十分に水温が上がらず、加えてイネの生育に必要な栄養を奪い取ってしまうため、イネが育ちにくいと考えられているからです。本当にそうなのでしょうか?私たちはこの疑問を解決するために実験を始めました。バケツでイネを育て、サンショウモの有無によって水温や地温にどれくらいの差があり、それがどのようにイネの成長に影響するのか計測しました。実験はまだ終わっていませんが、今のところイネの成長にあまり差はありません。稲刈り後、収量を比較する予定です。今後は、サンショウモの栄養塩類の吸収力を調べる実験を計画しています。他にも「サンショウモが水面を覆っていた方が雑草が生えにくいのではないか」という仮説のもと、実験を行いたいと思っています。
 宮津市上世屋の湿地では絶滅の恐れがある希少種ミツガシワが確認されています。私たちは地域の方と協力し、この植物を守るために調査を行ってシカによる食害を防ぐための柵を設置しました。また、湿地植物を乾燥から守るために調査し、池を整備することで生物の避難場所をつくっています。
上世屋では里山公園づくりも行っています。湿地とその周囲の雑木林に遊歩道を作りました。子どもたちが自然に触れながら遊べる公園を目指して、これからも活動を続けていきたいです。

REPORT

【活動による成果・効果または活動によって今後期待できること】

 自然環境を保護するため、はじめにその地域の現状を把握する必要があります。しかし、丹後地域の巨樹に関する十分なデータはありませんでした。私たちの調査・分析の結果は自然環境を客観的に評価する材料に、それをまとめた書籍は多様で豊かな森林の存在を地域の人に知ってもらうきっかけになり、森林資源の保護につながります。また、巨樹を調査しながら自然・歴史の特徴や人との関わりを読み解き、私たちが丹後についての知識を深め魅力を発見します。それを地域内外に発信することで、地域活性化に貢献できるはずです。

 現代の子どもたちは自然の中で思いっきり遊ぶ機会が少ないため、森林学習イベントを通してまずは森の楽しさを知ってもらいます。さらにクイズでは、「森の大切さ」や「森が元気に生長するためには人の手入れが必要なこと」を学びました。参加した子どもたちが森に興味を持ち、保全活動に関わることが期待できます。

 希少種サンショウモの生態を明らかにすることで、農薬使用や水環境の悪化が減少の原因だとわかりました。その結果を受け自生地の環境整備に取り組んだほか、学校の池にサンショウモを移植して増殖したものを現地へ放流することにより、サンショウモの増殖・定着を実現できました。現在行っている研究で、サンショウモがイネの成長に与える影響を正しく評価することができれば、これまでのような除草の対象にしなくても良くなるかもしれません。解明されていないことが多いからこそ活動を続け、保全の可能性を広げていきたいです。

 上世屋で整備した池には湿地植物が自生し、モリアオガエルが卵を産みに来てくれました。生き物たちの拠り所となり、生物多様性の保全につなげます。

 里山公園が子どもの遊び場や人々が集う場となることで、上世屋をより多くの人に知ってもらう。そこから新しいつながりが生まれ、里山を未来につなぐきっかけになることを願っています。

【アピールポイント(活動において特に工夫したこと、注意・注目したことなど)】

 巨樹調査は、フィールドワークで出会った木を一本一本メジャーで測定し、基準を満たすものを記録していきます。私たちはまず、神社仏閣に注目しました。地図記号を頼りに現地を訪れ、計測・記録を重ねました。次はGoogleマップの航空写真から大きそうな木を探し、その後調査に飛び出します。このように情報収集に力を入れることで、活動の幅を広げました。また、皆で声を掛け合って怪我の防止に努めるなど、部員・教員一同、協力して計測を行いました。

 森林学習では、自分の体で自然を感じることを大切にしました。大ブナの幹周を測定する際、看板に書かれている昔の記録から幹周を予想した後、子どもたちにメジャーの目盛りを読んでもらいました。他にも、しなる木にぶら下がって、木が柔らかい理由を考えました。五感を最大限に活用することで、記憶に残りやすくなります。また、ガイドの高校生が一方的に説明するのではなく、クイズの答えを一緒に考えながらファシリテートすることを意識しました。道中での子どもたちの気づきも聞き落とさず、丁寧に応じます。私たちが目指しているのは、高校生のサポートのもと自分で深く考える森林学習です。イベントの最後には、クイズを振り返りながらワークシートに今日学んだことを書いてもらいました。これも記憶に残りやすくするための工夫です。

 丹後地域に自生する希少種について、先輩の研究を受け継ぎつつ新しい視点から研究を進めています。実験では水田の環境を再現できるよう、天候に注意しながらバケツ15個の水の管理を行いました。私たちは農家の声を出発点に、サンショウモの生態やイネへの影響を科学的に示すことで保全と農業の両立を目指します。

 上世屋に自生する湿地植物を保護するために、水源から水を引いたり池を掘ったりしました。力仕事も、地域の人たちと協力して皆でやり遂げられるのがフィールド探究部の強みです。保全活動と並行して動植物の調査も行い、新たな発見や学びを得ることができました。特定の種だけでなく、その地域一帯に生息する動植物にアプローチしています。

 里山公園づくりは、「とにかく楽しく遊べる場所」が目標です。現代において、食糧生産や燃料確保という従来の目的だけで森・山に関わるのは無理があります。そのため、遊び場・学び場としてどう後世に残していくのか、今後も探究していきたいです。

​【学校ホームページ】
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